腹腔鏡下胆嚢摘出手術のための剥離手技は従来の外科手術に比べ, 患者にかかる負担は少ないが, 術野が内視鏡の映像のみであるため, 高度な技術を要すると言われている. そこで, 若手医師への教育のための手術シミュレーションが期待されている.
本研究は, リアルタイムにインタラクション可能な剥離手技シミュレータを構築することにある. そのために, まず, 剥離現象の特徴である作用していない箇所の破断を再現する. そして, 剥離を想定した複数層軟組織のシミュレーション実験結果から, 剪断応力の計算精度, 計算時間の検証を行い, 提案手法の高速性, 高精度性および位相変化に対する力学的ロバスト性を示す.
臓器モデルには, ボリュームデータが必要であるが, 計算コストがかかるため, これをリアルタイムにインタラクションすることは困難である. そこで, 特徴量の多い領域の解像度を局所的にあげるバイナリー2分割アルゴリズムを用いる. また, ボリュームデータの変形する様子は, 質点ばねモデルにより計算する. このアルゴリズムにより, 連続体力学に基づき導出したせん断応力値が大きい部分のメッシュを再分割し, 閾値を超えればメッシュを削除する.
剪断応力の計算精度については, 3パターンの引っ張り方向別に, 高解像度FEM, 高解像度MSM, オンラインリメッシュMSMの特定立方体要素内の応力挙動の比較を行った. その結果, 提案手法であるオンラインリメッシュMSMの特定要素が破断する時刻と、高解像度FEMの対応要素の破断時刻の誤差は最高で0.002[sec], 最低でも0.008[sec]に抑えることが出来た.
計算時間については, 高解像度FEMで120[min]のシミュレーションを, 提案手法では5[min]に短縮することが出来た. さらに, 提案手法の体積損失率は, 最大分割レベル時の要素サイズが2[mm]の場合には, 全体の2.0%にすることが出来た.
下記の動画は四面体メッシュにかかる最大せん断歪が0.9以上を赤色で表示し, 0.1以下を青色で表示した結果
PD 田川 和義
PD 山口 哲